起業家

2024.05.16 15:30

夫婦で創業。二人三脚で挑む頭痛治療用アプリ

Forbes JAPAN編集部
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石坂洋旭さん・川田裕美さん

小学生未満の子どもふたりを育てながら、スタートアップを夫婦で経営。 家庭と両立させながら創業期の難局を乗り切るヒントを紐解く。


川田裕美と石坂洋旭は2021年、頭痛治療用アプリ開発のスタートアップであるヘッジホッグ・メドテックを夫婦で起業した。医師であり、医療IT分野に携わってきた妻・川田がCEOとして事業を主導し、モルガン・スタンレーとスタートアップのFOLIOでファイナンスや組織運営を経験してきた夫・石坂がCFOとしてそれを支える。

これまでに累計約6.5億円の資金調達を実施し、従業員数も社員と業務委託を合わせて20人以上になるなど事業を順調に成長させてきた。一方、家庭面では、幼児期の子どもを育てながら起業し、創業期に第2子が誕生と、大きな変化の波を乗り越えている。ふたりはなぜ起業を選択し、どのように仕事と家庭を両立させているのか。

「起業」というキャリアの交差点

得意分野をうまく生かすかたちで経営に取り組んでいる川田と石坂だが、もともとは夫婦で起業することが視野にあったわけではない。むしろ、それまでふたりは畑違いのフィールドで経験を積んできた。夫婦での創業に至った理由について、石坂は「お互いのキャリアの交差点だったんです」と振り返る。

21年当時、ソフトバンクに勤めていた川田は仕事に悩んでいた。厚生労働省の医系技官、オンライン診療のメドレーを経て同社に入社。疾病の治療や予防に効果的なITツールを開発し、医療機器として承認を得ることにチャレンジしたいと考えての転職だったが、社内の事情で思うように進捗していなかったのだ。自分のやりたいことをどうすれば実現できるのか。川田は転職先を探しながら、それができる環境を模索していた。

付き合い始めたころから会話の半分以上が仕事の話題というふたり。川田から詳しい事情を聞いていた石坂は、自分で事業を立ち上げることを提案する。もともと自身の大きな方針として「起業」を掲げ、証券会社からスタートアップに転職して下準備を始めていた石坂にとっては自然なアドバイスだった。

初めはそこまで乗り気ではなかったという川田だが、「やりたいことが明確にあるのなら、会社に入ってその方針に従って働くよりも、自分でやったほうがいいんじゃない」という石坂の言葉に励まされ、次第に前向きに考えるように。

一方、石坂にも、自身の起業を考え直さなければならない転機が訪れていた。「私は証券会社時代に不動産を扱っていたので、アセットベースのビジネスに興味があり、会社をつくって物件探しまで進めていたのですが、コロナ禍で事業環境が一変してしまって。それで、妻の事業について話をするうちに、私も医療分野に詳しくなり、興味が出てきました。事業アイデアとしても面白かったので、一緒にやることになったんです」(石坂)。

幼児期の第1子を子育て中であることが障壁になるとは考えなかった。過去には、石坂が多忙なあまり、川田にばかり家事や育児の負担がかかっていた時期もあったが、コロナ禍でリモートワークになって以降は、石坂も隙間時間に参加し、ふたりで協力して家庭がうまく回るようになったからだ。

気がかりだったのは、数年前から欲しいと思っていた第2子のことだ。もしも会社の経営が安定する前に妊娠したら、どれだけ大変になるのか予想もつかないなかで、起業をするかどうかを何度も話し合った。その末に、「子どもは授かるもの。本当にできるかわからないときに、キャリアをストップさせるのは合理的じゃない」という結論を出した。
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文=三ツ井香奈 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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